Skip to main content

診療科紹介

全身麻酔について知っておいていただきたいこと(歯科・障害児歯科)

全身麻酔って何でしょう?

麻酔とは、治療が行われている間の痛みを取り除くとともに、患者さんの状態を厳重に見守り、治療が安全に行えるように全身の状態の管理にあらゆる努力をすることです。ですから、貴方のお子様が全身麻酔のもとに治療を受ける場合、お子様は麻酔医によって痛みやその他の苦痛を取り除かれるだけでなく、血圧、脈拍、呼吸、体温などの全身状態が正しく管理された状態におかれ、歯科治療を安心して受けられるのです。

局所麻酔と全身麻酔の違いは?

「全身麻酔はこわい!」とか、「局所麻酔だけでできませんか?」という質問はよく聞かれます。確かに、歯科で全身麻酔を行うことはそう多くはありません。しかしながら、治さなければならない歯の本数が多かったり、奥にある歯を抜いたりする場合、治療の時間が長くかかることがあります。お子様の場合、じっとがまんできる時間は限られています。まして歯科治療では、お口の中で先の尖った鋭い器具をしばしば使います。治療による恐怖心によって頭やからだを大きく動かしたり、障がいのあるお子様では自分では意識しなくてもからだが自然に動いてしまったりする(不随意運動)と、安全に治療ができなくなります。動かずに治療ができなかったり、治療後に精神衛生上悪影響を与える恐れのある場合、全身麻酔を行った方が安全にできるのです。

どのような方法で全身麻酔をかけるのでしょう?

全身麻酔の方法にはいろいろありますが、歯科治療における麻酔の場合、予め他の方法(マスクを使って眠る方法や点滴から静脈麻酔薬を入れる方法)で麻酔をかけて眠ってから気管の中に細い管を入れる気管挿管という方法か、お口の中でそっとマスクを広げるラリンジアルマスクという方法のいずれかの方法で行われます。ほとんどの場合、治療の際に咬み合わせの調整が必要になりますので、管をお鼻から通して行う経鼻挿管が多く用いられます。
気管挿管の場合、予めお子様が眠ってから操作を行いますので、お子様が恐がることはありません。また、用いるラリンジアルマスクや管も細くて柔らかいビニールやシリコンで出来ており、喉に傷がつくことはありません。
麻酔ガスや静脈麻酔薬を用いた麻酔は、専門の知識や技術が必要です。近年は代謝の速い麻酔薬が多く用いられるため、治療後すぐに麻酔を覚ますことが出来ます。治療の間、麻酔医によってお子様の全身状態は全て管理されています。
治療が終わりに近づくにつれて麻酔の深さも徐々に浅くなるように調節され、そして間もなく目が覚めます。元気な声で泣いたり、きょとんとした顔で周囲を見まわしたり、いつも通り寝起きが悪くて興奮して泣きながら激しくからだを動かしたり手足をバタバタさせたりするお子様など、それぞれのタイプがあります。

なぜ、全身麻酔の前に検査や診察が必要なのでしょう?

今までの説明でだいたい全身麻酔についてご理解いただけたと思います。より安全に治療を受けるために必要なこの全身麻酔も、患者さんの全身状態を知らずに麻酔をすることは大いに危険が伴うことは言うまでもありません。
そこで、全身麻酔を受けても大丈夫かどうかを調べるために、術前検査を行います。風邪など喉や鼻の状態がおかしい場合やアレルギー状態、咳き込む可能性がある場合などは治療や麻酔を延期した方が賢明といえます。また、貧血がありますと、からだの中に運ばれる酸素の量が少なくなり危険な状態になることもあります。そういう危険を避けるためにも予め血液の検査や胸のレントゲン検査などが行われるのです。

治療が延期される場合がありますか?

治療が延期される最も多い原因は風邪です。熱がある場合や咳、鼻水などの症状がひどい場合はもちろんですが、今の症状が軽くても風邪薬を最近まで飲んでいたときや風邪が治って間もない場合も含まれます。
忙しい仕事をやりくりしてやっと休暇をとったのに風邪くらいで、と思うかもしれません。どんなに短時間の治療でも、当日は食事や水分を制限されますので、それだけでも非常に体力を消耗させることになります。治療前に風邪は治りかけていたはずなのに、治療の後に高熱が出たり、肺炎などを起こしたりしてお子様が苦しむことになります。全身麻酔下での治療はお子様の体調が良いときに行うのが一番です。
風邪以外では、次のような場合も延期になることがあります。
下痢をしている、発疹がある、家族やお友達が、水疱瘡、風疹、はしか、おたふくかぜなどにかかっている場合などです。

なぜ、全身麻酔の前にはお食事が厳重に制限されるのでしょう?

麻酔中は睡眠中と違い、胃の中に内容物がたまりますと嘔吐を起こしやすく、これが肺に入りますと窒息をおこしたり肺炎になるなど、非常に危険です。そこで、全身麻酔をかける場合、予め胃の中を空にしておくことが大切なのです。ですから全身麻酔予定時間の何時間か前から、食事の制限を指示されます。しかし小児の場合、ただ食事をさせなければそれで良いというものではありません。あまり長い間水分を与えないと今度は脱水による熱が出ることもありますので、麻酔医は各々のお子様に最も適した食事制限を指示することになります。
入院の場合、その指示を看護師が正確に実施しますから問題ありません。しかし家から病院に来て直接治療を受ける場合、この重要な食事管理を保護者の方に実行していただくことになります。
したがって、麻酔医に食事指導を受けた場合、ご家族全員で正確に守ってください。「かわいそうだから」といって、指示以外の時間に食べ物を与えたりしますと、取り返しのつかないことがありますので、この点だけはくれぐれも厳重に守ってください。保護者の方だけでなく、お子様の兄弟や、お姑さまなどにも良く理由を説明しておいて下さい。

麻酔からさめるとき

吸う息と一緒にからだの中に吸収された麻酔ガスや静脈の中に入った麻酔薬により全身が麻酔され、その全身状態をより安全に維持する努力を麻酔医が行うことはすでにご理解いただけたと思います。一方治療が終わると麻酔医はそのような状態から普通の状態に戻すよう努力します。麻酔が浅くなってくると、患者さんは刺激により泣いたり、手足を動かしたりというように目が覚め始めます。そして、完全に患者さんの意識が回復しますと、入院病棟やデイケア病室に帰り、今度はそこの看護師が看護を行います。もちろん必要に応じていつでも担当医や麻酔医がかけつける体制になっています。

いつから食事ができますか?

麻酔中の患者さんには、安全のために必ず点滴が入れられますので、治療の後十分に目が覚めるまでは無理に水を飲まなくても心配ありません。完全に目が覚めて1時間程したら水分を摂らせてみます。もし、気持ちが悪くなって嘔吐するようでしたら、麻酔薬の影響がまだ残っていることがありますので、もうしばらく様子を観察したりします。乗り物酔いをするような、ちょっと神経質のお子様の場合、麻酔そのものの影響はなくなっていても、数回の嘔吐を繰り返す場合もあります。この場合でも、麻酔中は十分に点滴から水分を補給していますので、例えすぐに水を飲まなくても心配はありません。
水を飲ませて平気なようでしたら、しばらくした後食事を摂る事ができます。
このように、麻酔から十分覚めて2時間程すると、ほとんどの場合普通に食べられるようになります。日帰り入院の場合、その時間には帰宅できるほどの状態になります。その間、看護師によって全身の状態が観察され、適切な処置がなされます。

子供がかわいそうで、治療の話はしていないのですが・・・

治療、麻酔、入院などが、お子様の心理に何の影響も及ぼさないということは無いはずです。しかし、そうだとしても治療や麻酔を中止するわけにもいきません。そこで、ご家族の皆様方と、担当医をはじめとした当センターのスタッフが、それぞれの立場からタイミングを見計らって協力しながら、心理面に与える影響をより良い方向に持っていくよう配慮しなければなりません。
保護者の方には、お子様の年齢に合わせて、理解できる程度に治療や麻酔、入院について話をしてあげることをお願いいたします。特に小さなお子様の場合、なにも事細かく一部始終をお話にならなくても良いのですから、事実に沿って説明し、騙して病院につれてくるようなことはなさらないで下さい。 治療や麻酔に関する心配や不安は、年齢や個人に応じて違うものです。何がお子様の心理に最も大きく影響しているかは、結局はご家族の方々が最も理解できるのですから。

全身麻酔による副作用について

ご両親にとって、お子様が全身麻酔下に歯科治療を受けることは、非常にご心配であることは当然のことと思います。
ご心配のあまり、ご家族の方からいろいろと質問を受けます。確かに麻酔による死亡が全く無いわけではありませんのでご心配も無理のないことです。しかし、当科では歯科麻酔を専門とした日本歯科麻酔学会認定医が全身麻酔中の全身管理を行います。また、当センター麻酔科医とも密に連携し、十分な体制を整えた上で治療を行っております。麻酔を専門とする医師のいる病院での麻酔が関係した事故は、交通事故による死亡事故の頻度(1万人に1人)よりもはるかに少ないといわれています。また、麻酔の後何ヶ月もしてから麻酔の影響がでることはありません。
しかし、だからといって全身麻酔に危険性が絶対にないということは断言できません。お子様の体質やそのときの状態によっては麻酔が与える影響が大きく、非常に危険な状態に陥る可能性が無いとはいえません。それ故、麻酔をかける前に十分な診察や検査をして、お子様の状態を知る必要があるのです。このためには、保護者の方が日頃より知り尽くしているお子様の特徴をなるべくたくさん、どんな些細なことでも教えてください。ご家族の方々の麻酔や手術の事を話していただくことも大切なのです。
こうした細かい配慮と、あらゆる事態に対処できるスタッフの体制を整えることで、危険な状態を避けたり切り抜けることが可能となります。 当センターでは患者様の安全を第一に日本麻酔科学会の安全基準に従った麻酔業務を行っています。しかしながら、きわめて稀ではありますが、以下のような合併症が起こる危険性があることをご了解ください。

全身麻酔に伴うもの

  • 体温の上昇に伴う全身の臓器障害(悪性高熱症)
  • 心・肺・肝・腎などの機能低下
  • 脳・脊髄・神経系の障害、痙攣、意識レベルの低下
  • 血流障害による多臓器不全
  • アナフィラキシーショック
  • 麻酔が浅くなり治療中の記憶が残存
  • 注射部位の細菌感染、膿瘍形成

合併症を疑わせる症状が認められた場合は、患者様の救命ならびに後遺症を最小限にするためのあらゆる努力をいたしますが、その際には予定されていた処置とは異なった処置が行われる可能性があります。

おわりに

どれほど細かく説明され、どんなに理解し納得したつもりでも、心配や不安感が無くならないのはご家族の立場では当然のことと思います。でも、ある程度までは全身麻酔についてご理解いただけたと思います。
ご質問はいつでも受け付けておりますので、疑問に感じることがありましたら、担当医やスタッフに遠慮なくおたずねください。